春の海
白く乾いた細い道を抜けると、海が見える。
始めてきたときは、気のおけない友人たちが一緒にいた。
まだ、学生だった。
坂の上に立って、口々に「海が見えるぞ~!」って叫んで、笑い転げた。
意味なんてなくてもいい、ただ勢いとその瞬間を楽しめればいい。そんな時期だった。
仕事の休みで、ぽっかり空いた休日。
ふと気づくと海を目指していた。独りで。
あの坂を越えれば、海が見える。
遠浅の海の波が砂浜へ寄せて、細かい泡となって消えてゆく。それを見渡せる。
海は優しかった。
一歩一歩波際まで近づいて、海の音が身体の全部を包んだところで、お尻をついて砂浜に座った。
体育館で座るみたいに膝を抱えて、しばらく海を見ていた。
少し前にあの人が言った言葉。
「俺はひとりだなって思うけど、孤独ではない。alone だけど lonely じゃないって思ってる」
ちょっと苦笑い気味の彼だったが、いい言葉だなって、思った。
大人の言葉だ。
海を見たからといって、答えが見つかる訳ではない。
いろんな海でいろんなタイミングでいろんな人と思いを重ねて。
だから人は海に来るのだろう。
それぞれの海に、会いに行くのだろう。